心に残る言葉(3)

勉強や教育や

10月8日、坂口氏の医学生理学賞の受賞に続き、ノーベル化学賞に大阪大学の北川進氏が選ばれました。
当日のTV各社のインタビューに対し、ご自身の学説が学会に受け入れられずに不遇の辛い時代があったことを語られていました。そんな時に、尊敬する学者パスツール先生の言葉が心にあったそうです。「幸運は準備するものに訪れる(Chance favors the prepared mind)」

私は、その時「セレンディピティ(serendipity)」という言葉を思い出しました。ひらめきや新しい発想は、何かを見つけようといつも好奇心を持っている人のもとに舞い降りる、といった意味だったか。

ここで、以前読んだ本を取りだし、読み直してみました。

『思考の整理学』 外山滋比古著、ちくま文庫
もともとは、兵器の開発が目標だったはずである。それが思いもかけない偶然から、まったく別の新しい発見が導かれることになった。こういう例は、研究の上では、古くから、決して珍しくない。
(途中、省略)
大げさな発見ではないけれども、セレンディピティ的現象は、日常の生活でもときどき経験する。
(途中、省略)
視野の中心にありながら、見えないことがあるのに、それほどよく見えるとはかぎらない周辺部のものの方がかえって目をひく。(途中、省略) 周辺部に横たわっている、予期しなかった問題が向うから飛び込んでくる
(途中、省略)
学生というものは、授業、講義のねらいとするところには興味をもっていない。(途中、省略)それに比べて脱線には義務感がともなわない。本来は周辺的なところの話である。それが印象的でいつまでも忘れられないというのは、教育におけるセレンディピティである。教室は脱線を恥じるに及ばない。

『アイデアのつくり方』 ジェームズ・W・ヤング著、CCCメディアハウス
アイデアの訪れてくるき方はこんな風である。諸君がアイデアを探し求める心の緊張をといて、休息とくつろぎのひとときを過ごしてからのことなのである。
(途中、省略)
サー・アイザック・ニュートンとその引力の発見についての話もたぶんすべてが事実であるとはいえないようである。(途中、省略)どうしてあなたはこの発見をされるようになったか、とたずねた際、<つねにそれを考えることによってです>と彼は答えたということである。(途中、省略)もしこの間の完全ないきさつが分かったら、実際の解決は彼が田舎道を散歩していた時にやってきたということを私たちは発見するにちがいない。


パスツールの言葉とセレンディピティが意味するところは、やや異なるが、 “新しいもの・こと” に出会うための心の持ちようは同じに思えます。その情熱の炎は、激しく燃えるガスの火ではなく、静かに長く燃え続ける薪の火のようなもの。

夜遅くのTV番組になると、北川先生は、座右の銘を聞かれたときに、「無用の用」とおっしゃっていました。役に立たないものはない、役に立たないと思っていたものが後に役に立つこともある。そんな意味でしょうか。

そういえば、2002年に同じくノーベル化学賞を受賞なさった島津製作所の田中耕一氏も、「失敗したと思ったサンプルの中から新しい発見をした」と語っていらっしゃいました。

成功か失敗か、役に立つか立たないか、善いか悪いか、人それぞれ見え方は異なっていて、同じ人が見ても時間軸が変われば異なって見える。複数の見方ができる、見方を受け容れられる。そんな環境から、発見・発明・進歩は生まれてくるのでしょう。

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